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mixi規約改定についての若干の老婆心的見解

mixiが規約変更予定、日記の無断出版が可能に (slashdot.jp) mixi規約改定の意図説明「日記を無断使用することはない」 (impress.co.jp)

第18条 日記等の情報の使用許諾等
  1. 本サービスを利用して、ユーザーが日記等の情報を投稿する場合には、ユーザーは弊社に対して、当該日記等の情報を日本の国内外において無償かつ非独占的に使用する権利(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行うこと)を許諾するものとします。
  2. ユーザーは、弊社に対して 著作者人格権を行使しないものとします。

 というわけで、さっそく問題になっておりますが、まあ問題にもなります。mixiのアカウントは持っていないので、全文にあたることができないのがもどかしいですが、スラッシュドットの題名の通り、この条項を使えば無断出版も何も思いのまま。事実上のフリーハンドを与える条項となっています。とくに2項の人格権不行使特約がいやらしいですねえ。しかもなぜか遡及効もついているらしいし(条理上、効力を生じ得る条項であるかどうかはさておくとして)。そうか、同一性保持もしてくれないんだ…

 インプレスの記事によると、とりあえず釈明はしているようですが、なんともな。百万単位のコミュニティの規約にしては… という感がぬぐえません。

 この項目を追加した意図についてミクシィは、1)投稿された日記等の情報が、当社のサーバーに格納する際、データ形式や容量が改変されること、2)アクセス数が多い日記等の情報については、データを複製して複数のサーバーに格納すること、3)日記等の情報が他のユーザーによって閲覧される場合、当社のサーバーから国内外に存在するmixiユーザー(閲覧者)に向けて送信されること――の3点について、ユーザーに同意してもらうためと説明。ユーザーがmixiで作成した日記や映像、イラストは、ユーザー自身が権利を有することに変わりはなく、ミクシィがこれらの著作物をユーザーに無断で使用することはないとしている。

 まず、(1)サーバに格納する際にデータ形式等が改変されること、については、そもそもの利用形態としては、利用者はシステム上のWebフォームに日記等を記入し、それをボタン押下することによりサーバにデータが格納されるわけで、Aの形式をとっていた著作物がBの形式の著作物に変換される(たとえばWordファイルを送信したらExcelファイルに変換される)訳ではないので、「改変」の語は当たらないと考えられること。著作権法第27条の翻案にも第20条の改変にもあたらんでしょう。判例上も「翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより…」云々とあるので、単なるサーバへの登録によるデータ形式の置換が翻案・改変とは言い難いです。  次に、(2)については、これを問題にするんだったらRAID1も複製権の侵害なのかねえ? という感じでして、データの蔵置先をサーバ単位で捉えるかシステム単位で捉えるかの違いにすぎません。粒度を小さく取りすぎなんじゃないかな。  最後に(3)については、まあ、これについてはある程度了解し得るハナシではあります。ただ、通常は、mixiに書き込みを行なった時点で、指定した範囲のユーザがインターネットを経由して参照できることは当然了解しているわけで、黙示の承諾があったと考えて差し支えないでしょう。波風立てて規約を修正するまでもないハナシであります。

 で、何がアレかっつうと、仮に(1)から(3)まで全部認めたとしても(とうてい認められるハナシではないんだけど)、複製と自動公衆送信と翻案だけで充分なので、そうすると「上映、展示、頒布」は何なのよ? まあ、展示は美術と写真の著作物だけに認められた権利だし、頒布は映画の著作物だけに認められた権利なので、日記等には関係なさそうなんだけどさ。だったら書くなよ。

 まあ、要するに、改訂理由からすると不必要に大きな権利を得ようとしているのが疑心暗鬼を招いているんでしょう。事実、何でもできると言っていい権利だし。こういう場合は、範囲を限って許諾を得るのが常識だと思うんだけどさ。「…以下の各号の一に適合する範囲で無償かつ非独占的に使用する権利を許諾するものとします。(1)日記等を当社のサーバに格納する場合、(2)…」とか。上場企業なんだからそのくらいの親切心(と無用のトラブル回避能力)はあってしかるべきではないですかねえ。

 ただまあ、唯一mixiに同情するとなれば、最近の著作権関連の判例は、権利をより厳格に捉えて、いままでの通念的な解釈が妥当しないことがあったりするから、念のため広く権利を押さえておきたかった、というのはあるかもしれません。