著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件 平成19年05月25日[PDF]
判決文が公開されたので、今更ながらではあるが読んでみる。経緯はこちら。
…自動公衆送信って、こういうことだったっけ? なんか、判断するレイヤーを1段階間違えているような気がするんだけど。
こちらとかこちらでも疑問が呈されているようで、そりゃそうだわなあ。
今回問題になっているMYUTAなるサービスは、自分のPCから専用ソフトでmp3なんかを携帯電話用音楽フォーマットに変換、専用サーバストレージにアップロードし、自分の携帯電話でダウンロードするというもの。要するに、手持ちのCDを着うたにできるわけですな。レーベルモバイルなんかにとっては、確かに困るでしょうなあ。
で、争点は、(1)誰が複製(サーバストレージへのアップロード)をしているのか(ユーザが私的利用のための複製をしているのか、MYUTAが行っているのか)、(2)携帯電話でのダウンロードが自動公衆送信に該当するのか(サービスのユーザは「公衆」なのか)、ということなんですが、とくに気になるのは(2)のほう。
確かに著作権法の「公衆」概念は、明確に割り切れないところもあって、悩ましいんですが、今回のように携帯電話のサブスクライバIDまで使ってダウンロード先を識別しており、アップロードした音楽を、複数の携帯電話でダウンロードすることはできないにもかかわらず「送信の主体が原告(注:MYUTA)であり、受信するのが不特定の者であることに変わりはない」(判決文からの引用)というのはねえ… そりゃ、サーバってのは、同時に複数の処理を行いますし、物理的には複数人にデータを送信しておりますが、自動公衆送信って、そういうことを言うんじゃないと思っていましたが。
判決文には、MYUTAのシステムの仕組みが相当に詳しく書き込まれておりますが、かなり気を遣って作られたシステムであると思います。この内容で、自分が実務上、こういうサービスを開始したいんだが法的に問題あるか、と相談されたとしたら、それなりに悩みつつも、OKを出してしまいそうなサービス内容ではあります。その結果として、開発費用を投じてシステムを開発したにもかかわらず、(下級審とはいえ)NGを食らってしまうとなると、実務としては相当に消極的に判断しないと怖いです(カイシャにとって裁判に掛かるコストって、カネが掛かるというよりも、現場のヒトが拘束されるほうが大きいんですよね…)。上級審での判断がなされることを望むしかないです。
なお、世間的には、これでオンラインストレージサービスが全滅になるような物言いをする向きもあるようだけど、そこまで酷いことは言っていないので、念のため。煽ればいいってもんじゃないんだから…
あと、判決別紙1へのリンク[PDF]を追加。