武雄市図書館がTSUTAYAになる件

 ゴールデンウィークぐらいなにか更新してもいいだろうということで、微妙な琴線に触れたネタを。なお、先に言っておくと、本稿には結論はありません。

武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について

 一部の筋の方を、ほげえええ、と唸らせる逸品になっております。ワタシも、近所の公立図書館には非常にお世話になっておりますので、それなりに気になるところではあります。

 図書館を指定管理者制度を使って民間に丸投げするというのは、別に目新しい話ではなくて、その分野のトップである図書館流通センターなんかはこんなにいっぱいやっていたりします。これはこれで地域の知識集積拠点であるべき図書館が画一化されて地域固有のニーズがくみ取れなかったりとか、蔵書が指定管理者側の裁量に委ねられがちとか、地域図書館の専門家たる司書の時給安くね? これでまっとうなリファレンス業務回る? とかいう問題はあったりしますが、どこの自治体も金がないご時世でありますから、まあ仕方ない面もあります。みんな貧乏が悪いんや。
 今回は、このTRCの牙城に、CCCがチャレンジしたという構図になります。TSUTAYAの店舗展開にも限界というモノがありますから、隣接業務に進出しようというのは、これはこれで企業戦略としては、まあ、正しいのでしょう。先行する、というか独走するTRCとの差別化のため、代官山 蔦屋書店のノウハウを生かす、というのも、あるだろうと思います(まあ雑誌販売とかまでする必要あるのかとは思うけど。民業圧迫じゃね?)。

 ただ、ひとつ発表のなかで問題になりそうなのが。

8.Tカード、Tポイントの導入

 いうまでもなく、図書館の利用情報というのは極めてセンシティブな情報でして、何を借りたか、という情報は、どういう思想信条の持ち主であるか、というのと相似形になることが通常です。なので、図書館の自由に関する宣言とか図書館員の倫理綱領とかでは、利用者の秘密を漏らさないことが求められているわけです(裁判所の令状がない限り読書事実を外部に漏らさない)。

 なお、公的図書館については、公務員の秘密保持義務(地方公務員法第34条)がこれを担保していることになります(いま調べたら図書館法では図書館職員の秘密保持義務ってないのか。あってもよさそうなものだが)。
 これは指定管理者も同様で、武雄市の場合は武雄市公の施設の指定管理者の指定の手続等に関する条例第12条で、指定管理者に秘密保持義務を課しています。

第12条 指定管理者又はその管理する公の施設の業務に従事している者(以下この条において「従事者」という。)は、個人情報が適切に保護されるよう配慮するとともに、当該公の施設の管理に関し知り得た秘密を他に漏らし、又は自己の利益のために利用してはならない。指定管理者の指定の期間が満了し、若しくは指定を取り消され、又は従事者の職務を退いた後においても、同様とする。

 「個人情報が適切に保護されるよう配慮するとともに」というのは何とも微妙な言い方ですが、さすがにこれくらいの制度的手当はしてあるわけです。

 ところが、Tカードの発行を受けるためのT会員規約では、ご存じのとおり、Tカードを使ったサービスの利用履歴を取得し、

(3)会員のライフスタイル分析のため
(4)会員に対して、電子メールを含む各種通知手段によって、会員のライフスタイル分析をもとに、または当社が適切と判断した企業のさまざまな商品情報やサービス情報その他の営業案内または情報提供のため

 というような目的で使用したりするわけですね。しかもポイントプログラム参加企業で個人情報を共同利用するということになっています(第4条)。
 これが一般的に図書館に期待されるところの秘密保持義務や、条例上の「秘密を他に漏らし、又は自己の利益のために利用して」いることにならないものか、つまり、Tカードを用いることが図書館に求められている秘密保持義務とバッティングしないか、というのがひとつの焦点かと思います。

 CCCとしては、新規業務に進出するにあたり、さすがにこの辺はきちんと整理したうえで対処するものと期待したいと思いますが、どうもこの記者会見の速記録を読むと、市長はなにも考えてなさそうで、CCCは、少しは考えていそうだけど具体的なところは詰めてなさそうなので、当面は注視したいところです。

 以下余論。じゃあ、Amazonのリコメンデーション機能なんかは、あれもNGなのかどうか、という議論も生じてくるところではあります。リコメンデーションが開始された当初は随分気味が悪かったものですが、いまとなってはずいぶん普通のことになってしまいました。Amazonの場合は(個人の真摯かつ明確な同意があったかどうかは若干の疑問があるとして)おおむね問題視されることもなくなってきましたが、Amazonの場合と今回の場合は、ふたつ違いがあろうかと思います。
 Amazonの場合は、Amazonに情報を提供したのであって、Amazon外に情報が流出することは(たぶん)ない訳ですが、市の施設(市立図書館)を使ったらCCCに情報が伝わってた(それどころかポイントプログラム参加企業にも個人情報が共同利用されていた)というところがひとつ。
 ふたつ。Amazonを使うかどうかは、一応は利用者の任意であって別の書店に行っても一向に構わないものであるところ(BK1でも楽天ブックスでも、それこそ街の本屋でも好きなところに行けばよろしい)、図書館というのは「ここで書籍が入手できなければどこに行ってもダメ」という、地域における知識へのアクセスの最後の一線(としての役割を一応担っていることになっている)わけでして、そこは違う基準が適用されて然るべきであろうとは思います。

 いや、いつ、うちの近所の図書館もTSUTAYAに生まれ変わるかわからんのでね、他人事じゃありません、というとりとめのない内容でした。